
コラム
「小さな世界に技のすべてを凝縮 鴨下春明」2017/10/16
彫金は近世以来、鍔(つば)や目貫などの刀剣の拵を装飾する金具の制作技術として高度に発達した伝統的な金工技術です。こうした装剣金具は刀剣の隆盛とともに発達していきましたが、明治初期の廃刀令以後は多くの刀工達と同様、装剣金具師達の多くも行き場を失いました。しかし金具師達は帯留や飾り金具などの装飾金具に活路を見出し、新しい時代に対応した彫金工芸を創り出していくようになりました。
大正生まれの鴨下春明も、独創的なデザインと緻密な技術を駆使し、数センチ四方の小さな作品の中に自然に生きる動植物を見事に表現した金具師です。
し、伝統的な彫金技法を高度に体得、技の錬磨に力を注ぎました。1940年に独立して作家生活に入りますが、時は太平洋戦争真っただ中であったため、戦後になってから日展に出品するようになりました。1949年・50年と続けて彫金の壺などで作品の入選を果たし、そして1965年、第12回日本工芸展に出品。以降同展や日本伝統金工展、伝統工芸新作展などに小金具などを中心に出品し、持ち味を存分に発揮して受賞を重ねました。
東京の都心部に住んでいた鴨下にとって作品のモチーフにする自然界の動植物を手に入れるのは中々至難の業でした。その為、時に近郊の畑に出向いて果物や野菜を写生したり、銚子や三浦海岸で魚介類を分けてもらい、家に持ち帰って観察したりしていました。特に娯楽を持たなかった鴨下にとって、それは小さな楽しみでもあり、小さいながらも躍動感ある動植物の作品制作へと繋がる重要な架け橋でもありました。
	
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